全高P2023宮城大会参加報告その3
第2分科会「学校教育」ICTで広がるキャリアデザインの光〜多様な挑戦で広がる世界〜
会場: 仙台カメイアリーナ
日時:8月24日(木) 13時半~16時
参加規模:1000人(?)
【基調講演】
安藤明伸氏(広島工業大学 情報学部情報コミュニケーション学科教授)
演題「AI時代に求められる学びとキャリアデザインについて」
1 AI時代の学びとキャリアの変化
2 自己革新と接続的な学び
3 テクノロジーの活用と教育の変革
4 キャリアデザインと未来の展望
【概要と感想】
「大人のマインドセットの難しさ」が重要だと、先生は何度も語られていた。
新たな社会 『Society5.0』を生きる子ども達を支えるために、大人達がすべきことはなんだろうか。
私たち親の世代をして、「我々はアナログからデジタル、両方に触れた貴重な世代、時代の生き証人ですよ」と、音楽再生機の変遷を例えに出しながら、説明していただいた。
レコードやカセット、CDやMDで聴いたり録音していた時代から、音楽データをパソコンやスマホで操作する時代へ。
便利になったなぁと感じるけれど、でも子ども達にとっては、もう音楽はデータであることの方が当たり前で。
そういう、日々の些細なジェネレーションギャップについて、そして時代の変化について、大人はもう少し学んで、変わる必要がある。
マインドセット。
大人が、新しい価値観を否定せず受け入れ、変化に対応していくことができなければ、子どもの学びを阻害することになりかねない。
20年前、安藤先生が、宮城教育大学の200人の学生を前に教室で授業をしていた時のこと。
「何か質問は、意見はありますか?」と聞いても、挙手して発言する(できる)学生はいなかったそう。
そこで先生は紙を配布し、質問や意見を書かせ、回収。
すると、良い意見や質問がきちんとあるので、皆で共有したいと考えた。
でも、紙を回収してそこから内容をピックアップしていたら、その作業だけで授業時間の大半を使ってしまう。
そこで、授業中に、学生達のPHSや携帯のショートメールを利用しようと思いついたそう。
ただ、その取り組みが河北新聞に掲載された際に、先生に届いた声は批判的なものばかり。
「教師を育てる大学で、話をさせないとは何事だ。やめてしまえ!」と。
でも、先生はその取り組みを続けたし、今となっては、一人一台端末での授業が当たり前の時代になっている。
教室で200人で授業をしていても、学生達と1対1でのやり取りになってしまう(それすらできなかった)時代から、今はリアルタイムで200人全ての学生の意見を、みんなで共有できる。
海外の学生とオンラインでリアルタイムで話すこともできる。
アナログや「読み書き算盤」を否定するのではなく、両方の良いところを使える、素晴らしい時代になったのだから。
自己革新と柔軟性を持って、大人も子ども達と共に成長しましょうと、熱い言葉で講演を結ばれていた。
私は何よりも「学生達の意見や質問疑問は、どれも大切で価値のあるもので、絶対に皆で共有すべきものなんだ」という先生の姿勢、信念そのものが、教師を目指す学生達に多くの影響を与えたのではないかと思った。
「教師を目指す学生なんだから話す練習をしろ」ではなく、「どの意見にも価値がある。だから皆で共有すべきだ」と、学生自身が自分の価値を認めてもらう経験をしたこと。
その経験があって初めて、人は安心して発言することができると思うし、それが、特に学校という場でのコミュニケーションの肝心なところだと思う。
きっとそれは、昔も今も変わらない。
変わらないことを大切にするために、新しい技術を取り入れること。革新を恐れないことの大切さ。
そんなことを感じた基調講演であった。
【パネルディスカッション】
コーディネーター
末永 幸氏(テクノマインド株式会社 官公営業部マネージャー)
パネリスト
登本 洋子氏(東京学芸大学大学院 教育学研究科 准教授)
岡田 康介氏(宮城県教育庁高校教育課 主幹)
植木 徹朗氏(仙台市立仙台青陵中等教育学校PTA会長)
パネルディスカッションの概要
1 宮城県の取り組みの紹介(岡田氏)
2 全国の取り組みの紹介(登本氏)
3 保護者からの意見(植木氏)
4 QRコードからの質疑応答(来場者とパネリスト)
5 まとめ
岡田氏
宮城県はGIGAスクール構想以前から、いち早く、一人一台端末の導入に取り組んでおり、国の施策と足並みを揃えながらも「宮城スタイル」という独自のスタイルでICT教育に取り組んできた。
岡田氏は、中学校教員だった2017年に、場面緘黙症の生徒をなんとか授業に参加させたい思いからICT(情報通信技術)を自分の授業に取り入れ、その後、理科の訪問授業やプログラミング教室などで県内各地の学校を巡回し、ICT教育の有益性を実感。
現在は宮城県の本庁で、教育施策の立案に携わっているとのこと。
アメリカのとある機関の研究では、2011年に小学校に入学した子どものうちの65パーセント近くは、2030年になる頃には、当時は存在していなかった職業に就いているだろうという報告があり、また日本のリクルートワークスの調査では、国民の労働寿命(働ける時間)50年に対し、企業寿命は25年となっており、転職を前提とした職選び、キャリアアップが当たり前となってきている現状があるとされている。
またコロナ禍や未曾有の災害を経験し、未知の状況に対応できる判断力、思考力の形成が重要となっている。
社会が必要とすることは、学校でも学べるようにする。学ばせなければならない。
ICT教育は、キャリアデザインに必要不可欠なものである。
登本氏
AI時代、ICT教育における「情報」と「探究」の重要性について、皆様にぜひお知らせしたい。
教科としての重要性(2024年の共通テストで必須科目となる)と、キャリア学習としての重要性、その両方の大切さを理解してほしい。
「情報」の教科学習自体は35歳以下は学校で学んできた世代。高校生の保護者だと35歳以上の方が多いはずなので、大多数が「自分の知らない、よく分からない教科」という認識ではなかろうか。
共通テストの「情報」の試作問題でどのようなことが問われているか。
例 ○WEBサイト、SNSを利用する際の問題点を述べよ
○レジで610円の買い物をする際の、お釣りの硬貨を少なくするプログラミング
また過去三年分の出題問題、試作問題を確認すると、全ての教科で明らかに出題方式が、生徒自身の探究力や解決力を要するものに変化しているのが、手にとるようにわかる。
各教科の学習と並行して、総合的な学習の時間(総合的な探究の時間)の重要性が、共通テストにおいても年々増している。では高校生の「総合的な探究の時間」の学習指導要領が掲げる狙いは何かと言えば、「プログラミング的思考」の形成である。
「湧き上がってくる興味関心による課題の設定、情報の収集、整理分析、知識技術による解決、まとめ表現」である。
その中で、一番の難所が「課題の設定」の部分ではないか。
「湧き上がってくる興味関心」を育てるには、幼少期からの家庭教育、小学校、中学校、高校へと、継続的な大人の働きかけや環境が必要になってくるが、情報の収集や精査、整理分析能力においては、学校等でのICT教育が大変重要な位置づけになってくるのである。
安藤氏補足
「読み書き算盤が大事」とは明らかに違う時代。
探究学習を「科目」として捉えず、日常の中でこそ活かしていくにはどうしたら良いか?
高校生に「今まで打ち込んできたことは?」と質問すると、「部活」と答える生徒が本当に多い。
学習の中で何を学んだか、何に興味を持ったかを話せる生徒が少ないことは、非常に残念である。
ICT教育は、人間性や感性の成長と共に考えていかなければならない。
また、ネットリテラシー等も、同時に身につけさせていかねばならないが、しっかりと身につけている子どもの方が、むしろ大人より多いような印象がある。
この点も、大人がマインドセットし、理解と習得を急がなければならない部分である。
植木氏
ビジネスで必要なのは、ハード能力よりもやはりソフト能力。部活や学校行事は、自立心、自律心、協調や協働、時間管理能力を養ってくれる大切なもの。
教員の時間外労働などの問題はあるが、高校生活になくてはならないものと考えている生徒、保護者は多い。
アントレプレナー(起業家)教育においても、部活や行事活動が担う部分は少なくないが、ビジネスの基本は課題抽出、解決なので、探究学習そのもの。
ただ、探究学習は、一律の基準での評価ができないことや家庭環境の格差などの問題も孕んでいるからこそ、PTAで学校や子ども達に向けて何かできることがあるはず、という思いがある。
岡田氏
アントレプレナー教育については、子どもが「でも先生は起業してないじゃん?!」という素直な疑問を抱いてしまいがちなので笑、地域や保護者の皆様の経験や知識が絶対に必要な部分である。
植木氏
何よりも、この分科会に全国から1500人の保護者が参加して、こうやって熱心に勉強していること。そういう姿勢を子どもに見せることも、学習のゴールが、大学受験や就職ではなくて、生涯学んでいくという、キャリアデザインとはなんだろうということを家庭で話すきっかけになると思う。
親も学びを続けていきましょう!
【まとめと感想】
この分科会に参加するまでの私は、ICT教育、Society5.0、プラグラミング教育、AI時代、そういった言葉の数々を、我が家からは、我が子からは遠い、あまり関係ないものに感じていた。
でも、親の自分が時代に取り残されるのはまぁいいとして、我が子達がどうなっていくんだろうと、不安があった。
分科会に参加して「大切なのは、やっぱり心の動きなんだな。わたしはプログラミングを教えてはあげられないけど、『プラグラミング的思考』だったら、私にも、今からでも、子ども達と一緒に学んで伝えてあげられることがあるかもしれない。そして、幼い頃たくさんお外で遊んだこと、一緒に見たこと聞いたこと体験したことの全てを、子ども達のキャリアデザインの一歩目にすることができるんだ。」と考えられるようになった。
私達、親の世代にはなかったICT教育を、よくわからないものとせずに理解し、学校のICT教育への取組が、より効果的に発揮されるように、家庭や地域で子ども達や学校を支えていけるようにしてゆきたい。